
Love in lines
本美濃紙(美濃竹紙工房)/墨

Strawberry & Chocolate
青苧紙(苧麻・楮/三浦一之・大井沢工房さんぽ)/大﨑膠/朱
大山龍顕
「大子那須楮」との夏と冬
薄美濃紙の原料楮の産地「大子町」にずっと行ってみたかった。
<夏・楮の芽掻き>
大子町は茨城の北部、八溝山系の南端に位置しており、中心部から車で20分ほどの山間の集落に斎藤さんの藤屋酒店がある。道沿いには楮の畑が点在していた。藤屋酒店に到着してメンバーと会い、斎藤さんに挨拶をして、徒歩で数分の畑に向かった。以前見たことのある楮畑は人が通れる畝幅で等間隔に植えられていたが、大子那須楮の畑は株間が近く、幹が縦横に伸びて絡まりあい壁のようだったことにまず驚いた。密植は雑草の繁殖を抑え、収獲量が上がるのだという。
楮の株から延びる枝の幹は一本が4mほどまで伸びているが、葉の付け根から横に茎が伸びることがあり、その芽を摘む。
準備をしてハサミを持ち、芽掻きの方法を教わり、畝の隙間らしきところにそれぞれ並び、潜り込むように作業を始めた。畑の中は枝や葉が日差しを防ぐが、枝を手繰るとウンカが舞い、脇芽を取る。振り向いて取り忘れた芽を掻く。じりじりとしか進まない途方もない作業で素人が何ほど役に立つわけでもないが、脇芽を取ると楮の幹が少しだけシュッとして見えた。一方で、斎藤さんご夫妻は他の畝でするすると作業を進められていた。
<冬・楮蒸し、皮剥ぎ>
12月頃には楮の刈り取り、楮蒸し、皮剥ぎが行われる。
これまで、山形を中心に何度か参加してきたが、12月1日には山形県西川町の三浦一之氏の楮蒸しを訪ねて再開した。三浦さんには青苧の紙の作製などでとてもお世話になっていて、単純に会いたかったのだ。 10日、17日には大子町にも参加させて貰った。朝7時に一窯目の皮剥ぎが始まり一日に七窯分を剥ぐ。一窯分の量が大人が抱えるくらいの楮の束が七つほど入っている。それが6日おきに春まで続く、膨大な量だ。蒸しあがった楮の束を運ぶが、芋を蒸したような臭いの湯気で作業場全体の視界がなくなる。麻袋を6枚重ねて漸く湯気が収まる。麻袋の隙間から楮を抜き取り、皮を剥き、右脇に並べ、芯を左側に置く。枝を取り、皮を剥く。同じ動作を繰り返し、ある種瞑想のような、厳かな時間が過ぎた。蒸す間は休憩。夕方には疲労もあったが、少しだけ大子町に加えてもらえたような気分になった。
合間に、黒皮削りも体験をした。紙には樹皮内部の白い靭皮繊維を使うため不要な黒皮を削る。藁で編んだ台座を敷いて跨って座り、小刀で黒皮を抑えつけて手元に引いて削ぐ。うまくいくと、真っ白い繊維が残る。黒皮などが残ると紙のチリとなってしまう。枝の節などに引っ掛るとそこで裂けやすく、夏の芽掻きをすることがここで意味を持つ。 黒皮を剥いだ繊維は乾燥後、さらに一本一本選別して調整をされ、ようやく出荷される。
大子那須楮の束はチリもほぼ見当たらず、実に美しい。
書画の保存修復の際、傷んだ本紙を裏打ちで支える「肌裏紙」には緻密で繊細で丈夫な薄美濃紙が欠かせない。
それは、斎藤さんご夫妻、保存会の皆さんの一年を通した丁寧な仕事が支えていることを知った。
大崎膠試用所感
使用した鹿膠は茶褐色で、不純物のないガラスのように透き通っている。
10%の濃度で溶かすと、思ったよりもサラサラして、これでつくのかという感じがした。
ドーサは引かずに描き始めたが概ね定着は良い。制作の最後にドーサを1%よりさらに薄めて、裏面から引いてみたところ、ほぼ定着した。
とはいえ、いつもよりも気楽に練った粗い絵具は裏打ち後に少し動いた。
しなやかな使用感が鹿膠の特徴かはわからないが、思った以上に扱いやすかった。