
百合の花
本美濃紙(美濃竹紙工房)/染色紙(烏山和紙)/大﨑膠/墨/天然岩絵具

海を渡る鳥 -サシバ- (部分)
程村紙(福田製紙所)/染色紙(烏山和紙)/大﨑膠/墨/岩絵具
星和真
制作に対する心境の変化について
私が絵画素材に興味関心を抱くようになったのは、大学を卒業し社会人になってからのことである。学生時代は日本画を学びながら、膠、和紙、顔料という画材に触れてはいたが、描くことに重きを置いていたため与えられるがままに画材を使用していた。画材選びに関しても、とりあえずショップで売っているものを買えばそれで補えていた。そこに疑問を抱くことは無かったのである。
では、そんな私のマインドが変化していった背景の一つとして上げられるのは、社会人になってから自身で展示活動をするようになったことが大きい。展示活動を通して人に作品を見ていただきご購入いただくという流れは学生時代からは想像もつかないことであった。それは同時に「もっとより良い作品を描きたい。」という向上心にも繋がり、描く対象の背景や画材について個人的に調べるようになっていった。更にもう一つの要因としては、故郷の地域が昔より紙産業に関わりのある場所であることだ。今展覧会でも取り上げている「大子那須楮」が生産されている茨城県久慈郡大子町は、出身地である栃木県那須郡那珂川町の隣に位置していて幼少期から何度も足を運んだ馴染みのある場所である。また周辺地域の栃木県那須烏山市では烏山和紙、茨城県常陸大宮市では西ノ内紙といった和紙も生産されている。そして何よりも、私の祖母や先代の星家も約60年前ほど前までは楮の生産〜出荷までを行なっていたことを知ったのも大きい。
これらの背景もあって自身のマインドも変容してきた訳であるが、一方で「絵画素材やその背景に関心を抱きつつも、自身の制作へ落とし込むことができていない。」という矛盾にずっと苛まれてきた。それを払拭するために今回の展覧会の制作においては" 素材(和紙)を見せる表現 "を念頭に制作に臨んでいる。ご提供いただいた本美濃紙(岐阜県美濃市)には墨で百合の花を描き、新緑を彷彿とさせる染色紙(烏山和紙)。そして地元の地域を象徴とする紙である程村紙(栃木県那須烏山市)には、私の一番好きな鳥であるサシバを描くこととした。絵の具を塗り重るという行為を排除し、最小限の要素で何をどう描けるのか試すことは挑戦でもあった。自身の矛盾が完全に払拭できたわけではないが、制作をする際の表現の幅を広げることができたのは大きな成果である。
技術も知識もまだまだ足りない私であるが、「次はこんな絵も描けるかもしれない」というピュアな創作意欲を今回の制作を通して久しぶりに感じることができた。私の中の "素材"と "表現"に対する問いは、これからもずっと続いていくものなのかもしれない。この問いに向き合っていくためにはもっと学び、様々な場所へ脚を運び、矛盾に悩みながらも描いていくことが必要であると感じている。この「耕/たがへし」という場を通して、"素材"と "表現"の両方にアプローチしていきたい。
大崎膠試用所感
普段よく使用する飛鳥三千本膠と比較するために、2022年4月2日製3番抽出の牛膠4gに対し水分40mlで10%濃度で使用した。見た目としては透明度が高い印象を受け三千本のような白色の濁りはない。2年前に大﨑膠を使用した際(種類は記録を取っていないため不明)は、尿臭のような強いアンモニア臭があったが今回はほとんど感じられなかった。顔料と混ぜた感覚としては、普段使用している三千本和膠と特段大きな差異は感じられず使用できた。他の乾度も含め、今後も使用していきたい。