
冬のノスリ
本美濃紙(美濃竹紙工房)/大崎膠(三番抽出)/岩絵具/墨

地の恵み
月山和紙(大井沢工房さんぽ/三浦一之)/楮紙(紅花のかすいり、ニット、表皮入りヤマブドウなど)/大崎膠(三番抽出)/岩絵具/墨
藤本桃子
たがへし
私が動物を描くとき、そのぬくもりや毛触り、いのちの温度を表現したいと思っている。和紙のやわらかさ、一律でない凸凹のある表情などの特徴が、その表現にぴったり合うため、素材に選んできた。和紙を好んで絵にしながら、その和紙づくりに携わる人たちのことをよく知らないままでいることに、同じ、ものをつくる人としても、違和感を抱いていた。そんなとき、素材に深い関心をもつ作家グループ・耕/たがへし発足のお話を聞き、メンバーにいれていただいた。
夏、茨城県大子町で那須楮の芽掻きへ。天を目がけて真っすぐ伸び立ち、目上げるほどの楮。密に、無造作に生え、楮畑に入ると、視界いっぱい緑に囲われる。一心に丁寧に、脇芽や脇枝を掻く。畑は迷路のようで、外に出られなくなるほど広い。酷暑の季節も、永く、楮を育て続けてこられた親方ご夫妻に敬服の思いであった。
冬、山形県西川町で楮の皮剝きへ。雪深い月山の麓。小さな工房が蒸した楮の温かい蒸気で満ちる。手先というよりも全身を使って、剥いていく感覚。慣れない動作もあり、翌日筋肉痛になる。学生の頃から、今も、たくさん愛用してきた山形の月山和紙。包み紙を開けたとき、ふわりと拡がる独特な香りが好きでいたが、この日、楮の蒸気につつまれたとき、ようやく答え合わせができた。
展示作品の『冬のノスリ』は、本美濃紙で描く。楮のまっすぐな姿、和紙の滑らかで均一な美、生成り色。猛禽の鳥、ノスリがどこか印象と重なった。後に知るが、農地の神と呼び名もあった。『地の恵み』は落果と枯葉の積み重なり、次の季節への移り変わりを、紅花やヤマブドウ入りの月山和紙を重ねて貼り合わせて、表現した。
和紙ができるまでのほんの一端を、たった数日間であるが体験した。身を持って体感する学びは何にも変え難い。和紙は、制作をはじめるとき一番に手にする素材だ。和紙を陽にかざして透かすと僅かにみえる、楮の繊維の絡み合いのなかに、四季を通じて繋いでいく、和紙づくりに携わる人たちの手が浮かぶ。まだまだ見識浅く、私がこのたがへしでなにを還元できるのか不透明だが、私なりの視点で感じる知見があると信じて、少しずつ、私は絵描きとして、素材をつくる人たちのことを知り続け、深めていきたい。
大崎膠試用所感
牛膠は、4番煎じ比べて1番煎じになるほど濃度が高く、ねっとり感と、けもののような匂いがつよい。筆で塗ったときの感触はほぼ同じ。
比べて鹿膠は、透明度が高く、匂いもあり、感触は少しさらりとしている。
山形での冬の制作環境で昼(1段目、室温16℃)と夜(2段目、室温10℃ )を試す。制作環境は、常に膠を湯煎し、ヒーター上でお皿で絵具を溶く。とくに夜間は筆のなかでかたまってしまい、こすりつけるような感覚で塗れた。夜間の使用は難しく感じた。
膠水の水の割合を増やす(3段目)と、塗り易くなり定着もした。長期的な定着は、今後経過をみる。