絵画素材実習003_石州楮の皮剥き/石州和紙
日時:2025年12月20日(金)〜27日(金)
参加者:伊藤みさき、福田彩乃、藤田飛鳥
島根県西部の石見地方、現在の浜田市で石州半紙を製造する西田製紙所、西田和紙工房、石州和紙久保田の3工房を訪れ、地元で栽培されている石州楮の皮剥き作業を手伝う。
国の重要無形文化財である石州半紙はすべてこの地元産の楮を使用して作られている。近年、石州楮の生産量は増加している。農家さんから原木を仕入れた各工房がそれぞれで皮剥きを行なっているが、紙漉きにもっとも適している冬の寒い時期の多くの時間を皮剥き作業に充てるわけにはいかず、人手の確保が課題となっているようだ。
宿泊は、石州和紙久保田が今後アーティスト・イン・レジデンスなどでの利用も検討しているという改修中の古民家を利用させていただく。建物まで工房の脇を抜けていくが、所狭しと乾燥中の楮の黒皮が吊るされており、年末のまさにいま作業が大詰めに差し掛かっていることを実感する。
月山和紙や大子那須楮の皮剥きの経験がある耕メンバーにとって石州楮の皮剥きは驚きの連続であった。蒸しあがった楮の木口を掛矢で叩いたり足で踏んだりしてほぐす、表面の黒い皮をなるべくたくさん落とすために皮を裏返すように剥く、剥き終わり部分が筒状に裏返るよう足を使って芯を引き抜く。これらはすべて大子那須楮の皮剥きにおいては禁忌である。しかし現地で数日過ごしながら黙々と作業をしていると、この違いがなぜ起こるのかということがおぼろげながらみえてくる。
石州和紙の工房は海から歩いてほどない場所にある。和紙の産地は山間にあるという印象があったが、ここは違う。近くに川はあるが、それはもはや河口の汽水域である。島根の海は青くてとても綺麗だ。そんな話をしたとき、夏はねと答えが返ってきた。冬の海はいつも荒れているそうだ。滞在中も薄曇りが続き、小雨がぱらつき、気まぐれに陽が差す。そんな季節と土地柄の皮剥き作業である。
とにかく早く乾かしたい。黒皮が残っていると乾きにくいという。裏返すように剥くと表面の黒皮はきれいに落ちる。残った皮には縦に裂け目がたくさん入るが、これも乾燥を早めることに繋がっているかもしれない。この裂け目を大子那須楮は嫌う。白皮加工の手間が増えるからだ。石州和紙は緑色の皮をたくさん残して生成り色の濃い紙を漉くので、むしろ都合がいいのかもしれない。剥き終わり側が筒状なのも、束ねた時に空気の通り道になり、乾燥や保管時の湿気対策になるのかもしれない。そのような状態に剥きやすくするために、大子那須楮よりも長く切りそろえられているかもしれない。
気候風土の違いによる作業性の違いが、和紙産地によって異なる紙の風合いにつながるのなら、それはとても重要で意味のあることだ。しかし近頃の紙は、どこも白くてきれいなものになりすぎている気がする。
「昔より白くなったよね。」
「なったかもしれんね、使う人がそれがええ言うけぇ。」